洗濯機とカビ

新たな電気製品が登場して、生活は便利になりましたが、同時にカビの被害が発生しやすくなっています。その一つの例として、洗濯機が挙げられます。

洗濯機の形状は複雑なため、カビが問題となりやすくなっています。 特に洗濯槽の裏側は洗剤カスや皮脂、繊維などの汚れがこびりつき安く、湿度も高いため、カビが発育しやすいのです。

また、糸くずフィルターも定期的に汚れを取り除かないと、内部でカビが発育していることがあります。

近年、洗濯機のカビが注目され、洗濯槽洗浄剤の普及や、汚れやカビがつきにくい洗濯槽の素材や構造、機能が開発され、洗濯乾燥機も普及したため、カビ問題は改善されつつあると言えるでしょう。

洗濯機とその周囲のカビ

洗濯機周り

洗濯機が浴室の近くにおいてある場合には、洗濯機周囲の壁等もカビが生えやすくなっています。

多量の水分・湿気、汚れ、石鹸カスのある洗濯機周囲は、季節を問わずカビが生えやすいと言えます。 洗濯機の脇や裏の壁、排水溝の近くはカビの要注意ポイントですが、日常的に移動させて掃除をするのは難しいので、せめて年に一度、大掃除の時に徹底ケアするのがオススメです。

洗濯カゴに要注意

洗濯機そばの洗濯カゴも、カビ対策をしておきたいポイントです。

湿気を含んだ衣服や使用済みのタオルは、洗濯カゴに入れっぱなしにせず、乾かしてから入れるか、早めに洗濯を。湿ったままカゴに放置すると、雑菌が繁殖して不快な臭いの元となります。また、湿ったままではカビも生えやすくなり、それが洗濯槽の裏に住みつくと汚れの悪循環に陥るので要注意です。

洗濯カゴ自体もカビ対策が必要です。 籐やキャンバス地の洗濯カゴはおしゃれですが、カビがカゴ自体に大繁殖する恐れもあるので、もし洗濯カゴとして使うのであれば扱いに注意しましょう。

洗濯機の中

ステンレス槽や乾燥機の中にもカビは生えます。洗濯槽のカビは、水が微妙に届いたり届かなかったりという箇所に生えていることが多いので、水を洗濯槽いっぱいに溜めた上で洗濯槽洗浄剤を使ってつけ置く等する必要があります。

洗濯物を生乾き程度に乾燥させるのが習慣の場合、乾燥機の中はカビが好む温かさと水蒸気でカビの温床になりがち。

  • 定期的に洗濯槽を洗浄する
  • ドアを開けて湿気がこもらないようにする
  • 防カビスプレー

この3点を習慣にすると良いでしょう。

全自動洗濯機のカビ、広く知られるきっかけとなった1つの調査

洗濯からすすぎ、脱水までを連続して行う全自動洗濯機にカビが非常に多く生える、ということは今では広く知られていますが、以前はあまり知られていないことでした。広く知られるようになったきっかけは、2002年5月の朝日新聞の記事だったと言えるでしょう。

その記事が世に出る以前も全自動洗濯機のカビについては、洗濯機のメーカーなど一部の人には知られていましたし、新聞に取り上げられることもありました。しかし、2002年5月の記事のきっかけとなった浜田信夫氏による調査が、洗濯機のカビについては初めての本格的な調査でした。科学的な手法に基づく調査で数値が具体的に示され、より大きな衝撃となって受け止められたのかもしれません。

洗濯機のカビの特徴

洗濯機のカビの特徴の一つとしてよく挙げられるのは、その汚れの度合いの酷さです。 住宅全体を見回しても、そんなに大量のカビの生えているところは、専門家でも滅多に見ることがないというほど。しかし洗濯機を分解してみると、普段使っている時には見えないところに、ヘドロ状の汚れがべったりついているということがしばしばあるといいます。

分解しないとカビの酷さがわからない、というところに、この問題の大きな原因がありそうですが、放っておけばそのように汚れてしまうのだということを前提に、私たちは洗濯機のケアをしていく必要があるのですね。

洗濯水中のカビ胞子数〜カビ調査の結果から

2001年に家庭用洗濯機153台について行ったカビ調査の結果によると、洗濯水1ミリリットル当たりのカビ胞子数が100個以上の洗濯機の台数は全体の40%に上り、最高では4566個の胞子が1ミリリットル当たりに含まれていたそうです。

ちなみに、洗濯水中に、カビが全くなかったのはわずか1台。
洗濯水のカビ数は、毎日洗濯する方が、週に2〜3回洗濯するよりも、明らかに多いとのこと。
使い方で、とても大きな差が出るということも、この調査によって明らかになりました。

洗濯機に繁殖するカビについて

洗濯機には、野外や居室などでは見られないカビが多く見られます。 比較的新しい洗濯機でもそのようなカビが生えるため、普段着る下着や衣服を介して、カビが旧洗濯機から新洗濯機へ移住するのではないかと考えられています。

では洗濯機の使用開始から、どれくらいでカビは生えるのでしょうか。

使用期間が半年未満までは、洗濯水1ミリリットル当たりのカビ数は11.7個ですが、使用期間が半年から1年になると、平均カビ数は5倍に上昇。中には、100個以上になった洗濯機もあったとのこと。 つまり全自動洗濯機では、一般に半年くらいの使用で、カビ汚染が始まっているということになります。新しいから大丈夫、とは言えないのです。

全自動洗濯機のカビ対策

洗濯機がカビに汚染されると、カビ臭がしたり、洗濯物が汚れたりするようになります。

洗濯したタオルやシャツに黒っぽいかさぶた状のものが付いているのを、見たことがある人は多いのではないでしょうか。石鹸のカスや、一緒に洗ってしまった何かの破片と思われることもありますが、洗濯槽の裏に繁殖したカビの剥がれたものである可能性が大いにあります。

洗濯槽の裏にカビが生えると、洗濯する度にカビは大量の胞子を放出し、約40リットルの中に平均して100万個ものカビ胞子を含むカビまみれの洗濯水の中で洗濯することになり、その結果、洗濯物にたくさんのカビの胞子が付着します。

洗濯機のカビは、アレルギー性皮膚炎等の症状を引き起こす可能性があり、放置するのは望ましくありません。では、どうしたら良いのでしょうか。

洗濯機のカビ対策のポイント

洗濯機のカビ対策で気をつけるポイントは、以下の3点です。

  1. 使用後、できるだけ乾燥させる
  2. 洗剤の使いすぎに注意する
  3. 洗濯槽洗浄剤などで定期的に洗浄する
    その場合、カビのもっとも多い上部まで浸るようにする

洗濯機カビ対策のポイント解説

1.使用後、できるだけ乾燥させる
多くのカビが湿度の高い場所を好みます。
洗濯機の使用後は機内に水分が残っており湿度は高くなりがちです。
洗剤のカスなどカビの栄養があって湿度が高いとカビは繁殖しやすいため、できるだけ乾燥させてカビが繁殖しやすい条件を整えないようにしましょう。

2.洗剤の使いすぎに注意する
洗濯機に繁殖する黒いカビは従来、結露する窓枠などに多いクロカワカビと思われてきました。しかし研究が進み、クロカワカビとは異なるものだということがわかってきました。
洗濯機に繁殖する黒いカビ、それらは「エクソフィアラ」「スコレコバシディウム」という種類のカビです。日本ではあまり馴染みがなく、和名もありません。室内の空気中などではあまり見つかることのない種類のカビです。
室内等でよく見られる一般的なカビは、合成洗剤を栄養にして繁殖することができません。一方、エクソフィアラやスコレコバシディウムは、合成洗剤を栄養にして繁殖します。合成洗剤を栄養にできるのはごく限られたカビのため、洗濯機の中に繁殖するカビも、これらのような特殊な種類に限られるのです。

3.洗濯槽洗浄剤などで定期的に洗浄する
 その場合、カビのもっとも多い上部まで浸るようにする
洗濯機のカビは、脱水層の上部が最も多く発生し、下部には少ない傾向があります。 脱水槽上部の中でも特に、洗濯時に普段入れる水量の水面の高さ付近に最も多く発生します。 そのため、洗濯機のカビ取りを行う場合には、普段の水面より上の部分まで水を入れ洗浄剤を溶かし、カビのある部分を全て浸す必要があります。そうしないと、せっかくお手入れをしても、カビの一番多い部分をキレイにできませんでした、ということになりかねません。必要があればバケツで水を足して洗浄しましょう。

参考文献

カビ相談センター 監修/高鳥浩介・久米田裕子編『カビのはなし ―ミクロな隣人のサイエンス―』(2013年9月 朝倉書店)

吉田 政司『カビを防いで快適生活』(2010年10月 幻冬舎ルネッサンス)

浜田信夫『人類とカビの歴史 闘いと共生と』(2013年6月 朝日新聞出版)

本防菌防黴学会編『菌・カビを知る・防ぐ 60の知恵 プロ直伝!防菌・防カビの新常識』(2015年6月 化学同人)